総支配人 黒曜美咲【VIP素直クールスレより】 告白編

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347: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/24(月) 21:19:39.78 ID:7l9P3g5P0

「……全く、社長がおかしいと思ったら従業員もどうかしてるな!」

夕方のチェックインで慌ただしいロビーに罵声が響きわたった。

俺の隣のカウンターで、中年男性が従業員に向かって毒づいている。
その従業員の名は高井詩織(たかい しおり)。俺の同期だ。

次から次へと繰り出されるクレーム――いや、いわれのない罵倒に、彼女は平謝りを繰り返すばかりだった。

そう。
数ヶ月前の不祥事以来、この手合いの客が増えているのだ。
週に1、2度はこんなことがある。
こっちは真面目に働いているというのに知ったかぶりな口出しをされるのは、正直言って気分が悪い。

しかしそれも大抵は一言二言。長くてせいぜい2、3分程度で済むものだ。

だが今回は違った。
20分以上経ってもまだ男は憤飯ものの「クレーム」を吐き続けている。
その態度には目に余るものがあった。

しびれを切らし、彼女の元へ向かおうとした、その時。

 

348: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/24(月) 21:21:44.77 ID:7l9P3g5P0

「やめろ。お客様に感情を出すものではない」

そう耳元で囁かれ、豆鉄砲を食らった俺の目の前を歩いていく女性。

女性にしては高い身長。
しゃんと伸びた背中。
そしてそれにかかる腰まで届く黒髪。
このホテルの支配人、黒曜美咲(こくよう みさき)その人だった。

「お客様、申し訳ございませんがこれ以上は他のお客様のご迷惑となりますのでご遠慮願えますか」
力なく俯いている高井の隣に立ち、よく通る声で支配人は言った。

「何だと?客が問題を指摘してやってんだぞ、黙って聞いてろよ!」

「それは申し訳ございません。そのような事でしたらあちらにアンケート用紙がございますので、そちらに記入をお願い致します。これからの営業の参考とさせて頂きますので」

支配人はロビーの柱脇の机を手で示した。

「あぁ?俺はこいつに文句があるから言ってんだよ!面倒臭がってるんじゃねえよ!!」
示された手の先を見もせずに、高井を指さしながら男は怒鳴る。

 

349: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/24(月) 21:24:07.09 ID:7l9P3g5P0

その時。

「……そうですか」

……その時の一言は、明らかに今までのそれとは重みが違っていた。

「な、何だよその態度は。本当になってないな!責任者を「私が」

相手が言い終わらぬうちに。

「私が支配人です」

彼女ははっきりとそう言った。

「う…………」

男がたじろいでいる間に彼女は続けた。

「……では、私がお話をお伺いします。ここでは他のお客様のご迷惑になりますから、奥へどうぞ」
カウンター脇の半ドアを開けて男を招き入れる支配人……その何かがこもった目に。

―――――。

 

350: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/24(月) 21:27:55.88 ID:7l9P3g5P0

「……も、もういい!私は忙しいんだ!帰らせてもらう!」

「そうですか。ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
後ろに待っている客に睨まれながら、彼は背中を丸めて去っていった。

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「支配人……すいませんでした……」
高井が申し訳なさそうに頭を下げている。

「高井君、君も災難だったな。奥で休みたまえ。ここは私がやっておく」

「いえ……そんな……」
「いいから。君はよく頑張った。それに……」

「そんな顔では業務上問題アリ、だ」

そう言われた彼女の赤くなった目元には涙の跡。

「あ……」

目尻をおさえながら彼女は不思議そうな顔をして。

「ありがとうございました……」
そして柔らかく笑いながら奥へ下がっていった。

 

351: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/24(月) 21:29:24.57 ID:7l9P3g5P0

――――ああ。

そうか。

入社した時から思っていたんだ。
綺麗で、若くて、それでいて聡明で。
ただそう思っていただけだ、と。
だけど……今、はっきりわかった。

単純に格好良かった。
惹かれた。

その常に揺るがない冷静さに。

その目に。

その凛とした姿勢に。

―――俺は………惚れていた………。

 
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
――――
 

473: 総支配人 黒曜美咲1/5 2006/04/26(水) 01:04:02.42 ID:nkw4nVRYO

こないだの事で彼女を意識し始めてからというもの、何かと黒曜さんの方ばかり見てしまう自分がいた。
朝礼の時、会議の時、偶然見かけた時、そして仕事中まで。

しかし、つい目で追ってしまうというわけではなかった。
自然と目がいってしまう、そんな感じだった。
おそらく今までも気付かぬまま目で追っていたのだろう、彼女の事を。
やっぱり前から惚れてたんだよな、と一人で苦笑した。

 

474: 総支配人 黒曜美咲2/5 2006/04/26(水) 01:06:09.68 ID:nkw4nVRYO

黒曜美咲。
26歳。
俺が入社した2年前から、既にこのホテルの支配人をしていた。
その若さで、何故支配人などというとんでもないポストに着いているのかはよくわからない。
しかし、経営手腕は確からしい。うちのホテルがこの業績に落ち着いたのは、彼女が赴任してきた年からなのだと先輩社員に聞いた。
話を聞いた限り、どこぞの企業の令嬢であるとか、エリートの研修の一環であるとかいったものではなく、本当に実力で叩き上げられたような様子だった。

それに、その女性らしからぬ口調や、何にも惑わされない超然的とした性格。
だからと言って淡泊なわけではなく、その場に適した的確な判断や指示、従業員を思いやる経営姿勢に信頼も厚い。
一企業の支配人にはもったいないその美貌も相まって、クールビューティーだ、理想の上司だと言われていた。

 

475: 総支配人 黒曜美咲3/5 2006/04/26(水) 01:07:30.73 ID:nkw4nVRYO

ただ、浮いた話はさっぱりなかった。

若いうちからこれだけ働いているのだから不自然な話ではないが、それにしても何か違和感があった。
男の噂も無いし、周りの若い同僚や先輩がアタックを掛けたという話も聞かない。

おそらくそのあまりの完璧さと、支配人という立場に躊躇しているのだろう。
そして、自分もその躊躇している男の一人になってしまっているのだった。

俺。
入社2年でまだ垢抜けない若造。
方や彼女。
俺の若干2歳上で既に一ホテルの支配人。
仕事も出来て、美人で、性格も良くて……。

あれほどの女性に自分は釣り合うのか、そもそもどうやってアプローチをかけるのか。

そんな事ばかり考えながら彼女を見つめる日々が、2ヶ月続いた。

 

476: 総支配人 黒曜美咲4/5 2006/04/26(水) 01:09:00.22 ID:nkw4nVRYO

そんなある日。
事務所で一人残業を終え帰ろうと席を立つと、黒曜さんが入ってきた。

「川島君、残業かね?ご苦労様。」
名前を覚えてくれている事に驚いた。
胸が高鳴る。
「いえ、今終わったところです。支配人もお帰りですか?」
「ああ。この時間に帰れるのは久しぶりだよ」
「お疲れ様です。じゃあ自分も一緒に退社しますよ」
「そうだな。では行くか」
「はい」

事務所を出、エレベーターに乗り込む。

……この狭い空間で、黒曜さんと二人きり。
これは……チャンスじゃないのか?

……などと考えてはみたものの、何も出来ない情けない俺だった。

と、その時。

 

477: 総支配人 黒曜美咲5/5 2006/04/26(水) 01:11:09.97 ID:nkw4nVRYO

「川島君、君に話があるんだが」
「な……何でしょう?」
少し間を置いて。
「……至極個人的な話だ。別の場所で話そう」
そう言い終えると彼女は、ちょうど開いた扉から出ていった。

こちらを見向きもせずに先を歩いてゆく彼女を追いながら、俺は未だ定まらぬ思考を巡らせていた。

まさか黒曜さんの方から誘われるなんて……しかし一体何の話だ?
個人的、というあたり仕事の話ではなさそうだ。

しかし……この状況。
仕事付き合いではない個人的な話の為に、会社から離れて二人きり。

これは……チャンスだ。
今度は確信を持ってそう心で呟く俺だった。

 

128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/29(土) 01:11:43.68 ID:ODQVvV6yO

ホテルを出て、黒曜さんと並んで歩く。

……なんか言ってみるとエロいな……
なんて不埒な事を考えながら、俺は黒曜さんについていった。

-----

歩き始めてもう5分は経つが、会話はない。
しかし、考えてみれば今も二人で歩いているわけで。
機会は生かさねば。
とりあえず今どこに向かっているのかでも聞いてみようか。

「あの、支配人」
「……その呼び方はやめてくれないか」
「えっ?」
「ここは職場ではない。私にはちゃんと黒曜美咲という名前があるのだが?川島深澄君?」
立ち止まり、若干苛立った表情でこちらを見ている黒曜さん。

表情変わらないと思ってたけど、よく見たらわかるもんだな……
てか、フルネームまで知ってたのか……

 

129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/29(土) 01:13:30.09 ID:ODQVvV6yO

「しかし……一応職場の上司なのでなんと呼べば……」
「何とでも。好きなように呼んでくれればいい。
それから、プライベートで敬語はやめたまえ。」
「はぁ……しかし自分は年下ですし……」
「気を使うほどの年の差でもあるまい。そもそも、私は敬語を使われるのが嫌いなんだ」
「なぜです?」
「やめろと言ったろう……まぁいい。」
そう言って再び歩き出す黒曜さん。

「何だかな……よそよそしい感じがするんだ。

自分勝手かもしれないが、私は対等に接して欲しい、そう思っている。
そう思ってはいるんだが、この口振りにこの身なりだ。
どうも気を使われているというか、一歩距離を置かれているというか。
そんな接し方ばかりされてしまうんだよ。『敬語』でな。
それが嫌なんだ。」

なるほど……
でも、こんなクールな人がいたら接し方に戸惑うのも当然な気がするが……

 

130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/29(土) 01:16:13.01 ID:ODQVvV6yO

「そうだったんですか……しかし、本当にいいんですか?」
「煮え切らん男だな君は。私がいいと言ってるんだから気にするな」

これは引いてくれそうにないな……
まぁ正直嬉しいんだが。

「じゃあ……そうさせてもらうわ。
よろしく、黒曜さん」
俺がそう言うと彼女は、珍しく嬉しそうに笑いながら。

「それでいい。よろしく頼む、深澄」

と、言った。

……え?

「ってオイ!俺の事は呼び捨てかよ!」
思わず声に出てしまった。
「駄目か?」
「いや駄目ってこたないけど……いきなり?っつーか……知り合って間もない男の事名前で呼ぶか?」
「気に掛けることではないな。だいたい、私は君に好きに呼んでいいと言ってるんだから、私だって好きに呼んでいいだろう?」
「う…………」
言い返す術がなかった。
「何なら、私の事も美咲と呼んでくれても一向に構わんぞ?深澄?」
「とんでもない!そんななれなれしい事出来ねえよ」
「そうか。気が変わったらいつでもそう呼んでくれて構わんからな。
言っておくが、仕事中は呼んでくれるなよ。私は公私混同はしないたちなのでな」
「わかってるって」
そんなことを言い合いながら、俺達は並んで歩いていった。

 

131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2006/04/29(土) 01:17:41.35 ID:ODQVvV6yO

-----

10分ほど歩き、駅前に近づいてきた時、黒曜さんが話しかけてきた。
「そういえば」
「何?」
「君はさっき何を聞こうとしていたんだ?」

………。
あぁ、そうだ。すっかり忘れていた。
どこに行こうとしているのか聞きそびれたままだった。

「いや、今からどこ行こうとしてんのかなぁ、って」
「私の行きつけの店だ。もう着く」
「へぇ。黒曜さんも酒飲んだりするんだ」
きっと彼女の事だから静かな雰囲気のカクテルバーかなんかなんだろうな。
「まぁ嗜む程度だがな……見えたぞ。あれだ」
そうして彼女が指さす先には。

クールな彼女のイメージとは似ても似つかぬ。

『呑処 来洲』の赤ちょうちんがぶら下がっていた。

 

53: 総支配人 黒曜美咲1/6 2006/05/02(火) 00:43:14.22 ID:ZYi6t0NvO

『呑処 来洲』の前まで来た俺達。
「着いたぞ」
「………意外」
「? 何がだ?」
「いや……黒曜さんがこういう店で酒飲むってのが」
「こういう店とはなんだ。ここはいい店だぞ。
まぁいい。とりあえず中に入ろう」
突っ込むとこはそこかよ、と頭の中でツッコミを入れながら黒曜さんに続いてのれんをくぐる。

カウンターのみの店内には、中年の男性が6人ほど座っていた。
そして、一人カウンターで店を切り盛りしている老年の男性。
おそらく店主だろう。快活そうな親父だ。
その親父がこちらに気付き、
『いらっしゃい!お?咲ちゃんじゃねぇか、しばらくぶりだな』
と、イメージ通りの清々しい大声で挨拶をした。
「こんばんわ源さん、久しぶり。」
挨拶を返す黒曜さん。
どうやら随分馴染みのようだ。
『とりあえず座りな、そこ空いてるから………おぉ?』
後ろに立っていた俺に気付き、源さんと呼ばれた親父は目を丸くした。

 

54: 総支配人 黒曜美咲2/6 2006/05/02(火) 00:45:36.38 ID:ZYi6t0NvO
『そうか……ついに咲ちゃんにも男が出来たんだな……』
感慨深げに呟く親父。
「源さん」
「違いま」
俺達が言うが早いか、親父は
『直、直ーー!!』
と店の奥に向かって叫び始めた。
すると、
『なんだいデカい声出して!聞こえてるよ!』
と、さらに大きな女性の声が返ってきた。
『直、ちょっとこっち来い!咲ちゃんが男連れてきたぞ、オトコ!』
「源さ「だから違『何だってぇ!?』
俺達の反論はいとも簡単に上書きされてしまった。
『そりゃ本当かい!?』
店の奥からやってきた割烹着を着た初老の女性は、源さんにそう尋ねた。
『おうよ。あいつだ』
俺を指さす親父。
『へぇ~、あの咲ちゃんが男をねぇ……咲ちゃん、大事にしなさいよ』
どこかで聞いた感慨深げな声で黒曜さんに言う老女。
どんどん話を進める二人を見兼ねたのか、黒曜さんは
「キリがないな。深澄、とりあえず座ろう」
と、少し呆れたような声で言い、空いている席に座った。

 

55: 総支配人 黒曜美咲3/6 2006/05/02(火) 00:46:51.33 ID:ZYi6t0NvO

その隣に座る俺。そして正面に陣取る老夫婦。
「源さん、直子さん。私の職場の部下の川島深澄君だ」
「あ……ども。」
黒曜さんの紹介に軽く頭を下げる。

「深澄、来洲源二さん、直子さんだ」
『よろしくね』
『よろしくな、兄ちゃん』
陽気に挨拶してくる二人に、もう一度軽く頭を下げる。

『で、何でこの子に惚れたんだい?』
と、対面が終わるなり何の面目もなく黒曜さんに聞く老女。
「私の話を聞いてくれ直子さん。
この男は私の恋人ではない。」
『あら……そうだったの。』
前にいる二人ともなぁんだ、といった顔つきでこっちを見ている。

『それにしても珍しいじゃないか、咲ちゃんが人を連れてここに来るなんて』
「大事な話があるからな。そういうことはここに限る」
『ってことは日本酒頼んでここで告白かい?』

? よくわからんやりとりだ。

「違う。彼は友人だ。」
少々苛ついた口調で黒曜さんは言った。
そうか……ほんの少し期待してたんだけどな。
でも、友達と思われてるんだ。

……嬉しい。

 

56: 総支配人 黒曜美咲4/6 2006/05/02(火) 00:48:53.84 ID:ZYi6t0NvO

「それにもし愛を告げるなら、悪いがここではしない可能性が高い」
『じゃあどこさ?』
「好きだと思った所でだ」
なんつー恥ずかしいことをさらっと言うんだろうこの人は。

『ふぅん……そうか。ま、頑張んなさいよ』
突然こちらに目を合わせた老女は、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

『で、お二人さん。何にする?』
横で話を聞いていた源さんが聞いてきた。
「私は焼酎と軟骨を。深澄は?」
「俺は……枝豆とビールを」
『あいよ。直、頼まぁ。』
『あいよ。』
奥に戻っていく直子さん。
程なくしてビールと焼酎が運ばれてきた。
「しっかし、黒曜さんが焼酎とはますます意外だわ」
「好みの問題だ。
君、あまり人を見かけで判断するなよ」
「はいはい、わかりましたよ」

そんな感じで、取り留めもなく黒曜さんと話した。
実家が旅館で、跡継ぎの修行の為にこの仕事に就いたんだ、とか。
この口調は母の癖がうつってしまったのだ、とか。
子供の頃はよく男の子に間違えられたんだ。だから髪を伸ばしているんだ、とか。

 

57: 総支配人 黒曜美咲5/6 2006/05/02(火) 00:51:19.23 ID:ZYi6t0NvO

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俺のビールの追加が3杯目になる頃には、時刻は11時を回り他の客はもういなくなっていた。

と、しばらく2杯目の焼酎で粘っていた黒曜さんが不意に注文した。
「源さん、白鶴を」
ここで日本酒とは……なかなかやるな。
『……あいよ。直!白鶴だ!』
『あいよ』
奥から直子さんの返事。

と、おもむろに出入り口に向かって歩き出す源さん。
何をするのかと思いきや、なんと彼は表に出てのれんを下げてきてしまった。
「え……何で……」
驚いて源さんに向かって言ってみても、彼は黙ってのれんを壁に立て掛け、そのまま店の奥に引っ込んでしまった。

訳のわからない事態に、酒の入った頭で混乱していると白鶴の瓶を持った直子さんがやってきた。
『はいお待たせ。白鶴ね』
「うん。ありがとう、直子さん」
コップに酒を注ぐ直子さん。
「あの、何でお店閉めちゃうんですか?まだ看板じゃない……ですよね?」
疑問をぶつけてみる。
『人払いさ。日本酒で、ね』
そう言って瓶をカウンターに置くと、直子さんも奥に行ってしまい、店内は俺と黒曜さんの二人だけになってしまった。

 

58: 総支配人 黒曜美咲6/6 2006/05/02(火) 00:53:52.17 ID:ZYi6t0NvO

「なぁ……これ、どういう事?」
「人払いをして貰ったんだよ。大事な話をするからね」
俺が聞きたいのはそこじゃない。
「いや、そうじゃなくて何で白鶴頼んだらこうなるのか
「そんな事はどうでもいい。瑣末なことだ」

一瞬の空気の緊張。その時、黒曜さんは確かに苛立っていた。
しかし、手に持っていた日本酒を一気に飲み終えた時には、さっきと変わらぬ、いつも通りの黒曜さんがこちらを見ていた。

……いや、違う。
酒のせいか若干丸くなっていた口振りは、俺の不用意な一言のお陰で跡形もなく消え去ってしまった。
先ほどまでのような、軽く話しかけられる状況ではなくなってしまっていたのだ。

さらに、話すことをやめて気付いたことがある。
頬は少し赤くなっているし、目は僅かながら熱がこもって潤んでいるように見える。

妖艶。
彼女はまさにその言葉にぴったりの顔をしていた。
はっきり言って……本当に綺麗だ。思わず吸い込まれそうになる。
そんな彼女を見つめていると、ようやく彼女は口を開いた。

「深澄……」

その顔とは裏腹なはっきりとした、まさに「いつも通りの」口調で。

「君は、私に惚れているな?」

と、途轍もない事を彼女は平然と言ってのけたのだった。

 
――――――――――――――――――――――――
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40: 総支配人 黒曜美咲1/8 2006/05/06(土) 12:39:40.42 ID:brORyulAO

「君は、私に惚れているな?」
そこに自惚れや思い込みはなく、彼女はただ淡々と疑問を投げ掛けているだけのように見えた。

「………え?」
意味がわからない。
いやうんまぁ確かにそうだそうだけど何で知ってるんだ俺は誰にも話してないっつーか何で飄々とそんなこと言えるんだよ訳わかんねぇそもそもいつから気付いてたんだえっまさか俺は気付かれながらもバッチリ視線送ってたのかああああああああああああ!!

「どうした、顔が赤いぞ」

ひとしきりテンパっている所で言われて我に返る。
……いや、そんな顔でそんな事言われたら顔も赤くなるって。
ましてや好きな人に言われたら。
しかしこの雰囲気で「顔赤いぞ」って……この人は本当に色恋沙汰の話をしてる自覚があるんだろうか?

等と考えているうちにようやく言葉を返せるぐらいにテンションも下がってきた。

 

41: 総支配人 黒曜美咲2/8 2006/05/06(土) 12:41:05.15 ID:brORyulAO

「………何で?」
「何で、だけでは答えられない。何が『何で』なのか言ってくれないか。」
そんな恥ずかしい事言わせないでくれ……
「というより、質問しているのはこっちなんだがな。先に答えるのが礼儀というものじゃないのかね?」
「あぁ……いや………ごめん」
「うむ。で、どうなんだ?」

言うしかないのか。

「……そ……そうです……」
自分で情けないと思うほどの、消え入るような声で俺は答えを返した。

「すまないがよく聞こえなかった。もう一度言ってくれないか」

つっ………
こうなりゃもうヤケクソだ。

「そ……そうだよ!俺はあんたが好きだよ!惚れてるよ!前から惚れてたよ!!」
俺は席から立ち上がって叫んだ。
店の奥からコップが割れる音がしたが気にしない。
しかしあぁ何で逆ギレ気味なんだよ。しかも何どさくさに紛れて上司のことアンタとか言ってんだ俺。相当間抜けだ。

そして、こんな挙動に動じることもなく変わらぬ表情でこちらを見て
「そうか」
とだけ言って、白鶴をあおる彼女。

こうして俺は情けない告白を済ませたのだった。

 

42: 総支配人 黒曜美咲3/8 2006/05/06(土) 12:42:40.38 ID:brORyulAO

-----

「いつから気付いてた?」
椅子に戻りながら、今の叫びで随分熱が抜けた頭で聞いた。

「2ヶ月程前になるな」

一瞬体が固まる。
そして一気に抜けた熱が戻ってきた。

「な……何か、気付いたきっかけ、みたい、な、こと、あった……?」
まさか。
「ふむ……そうだな。
君の同僚の高井君が妙な輩に絡まれているのを助けた事があっただろう。アレだ。
その時君もフロントにいたな?覚えているだろう。確か君に声もかけたはずだ」
ガタン、と。
俺はカウンターに顔を突っ伏した。

バッチリだった。
まさかここまで事細かにバレていたとは。
ここまで来てしまってはこちらも若干諦め気味と言うか、開き直るしかなさそうだ。
顔を上げて彼女の方を見る。
「……すごいな。実は俺もあんたの事好きなんだって気付いたのがその時だったんだ」
「そうだったのか」
「恥ずかしいなぁ……そんなに早く気付かれてたなんて」
「恥ずべき事ではない。相手に好意が伝わっている証拠だ」
その好意が自分に向けられてるってのになんでそんな平然としていられるんだろう……

 

43: 総支配人 黒曜美咲4/8 2006/05/06(土) 12:44:42.79 ID:brORyulAO

「はは……ところでさ。
何で俺が黒曜さんのこと……好き…って事に気付いたんだ?」

「目だ。君の、目。」

そう言って黒曜さんはその黒く細い瞳で俺を見つめた。

目、か。そりゃあ見る以外何もしてねぇもんな。
「そうか……確かに俺ずっとあんたの事見てたからなぁ」
「違う」
「え……」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ……どういう意味なんだ?」
「君の目は、恋い焦がれる人を見るときの目をしていた、という事だ」
「……何でそんな目をしてるって判るんだ?
女の勘、ってやつ?」
俺のおちゃらけた言葉に。

「……その目をした男には見飽きたものでな」

彼女は少しだけ、ほんの少しだけ目を伏せながら。
そう呟いて、ちびりと白鶴を口に含んだ。

正直な所、彼女がこんな事を言い出すとは思っていなかった。
勝手な憶測ながら恋愛とは無縁そうな人だと思っていたし、だからこそためらっていた部分もあった。
だが、今の一言。昔に何かあったんだろう。
そういえばさっきも「好きだと思った所で――」だとか「好意が伝わってる証拠――」だとか言っていたな。
案外恋愛には熱い人なのかもしれないと、そう思った。

 

44: 総支配人 黒曜美咲5/8 2006/05/06(土) 12:46:50.09 ID:brORyulAO

そしてその彼女は今、少しだけ――と言っても傍目にはわからない程の――悲しそうな顔をして俯いている。
なんだかんだで返事はいつ聞けるのかと終始緊張していた俺も、
そんな彼女に「付き合ってくれ」などと言える訳もなく、声をかけることも出来ずに、
気の抜けたぬるいビールをすすりながらいたずらに過ぎていく時間に身をまかせる事しか出来なかった。

-----

10分程続いた沈黙を破ったのは黒曜さんだった。

「深澄、君は私のことが好きなんだな?」
「ああ……そうだよ」
今更ためらっても仕方がないだろう。
若干投げやり気味に返事をした。

「残念だが、私は今君に恋愛感情を持っていない。
だから、恋人になってくれだとか付き合ってくれだとか、結婚してくれだとか、そういう類の君の申し入れを受け入れることは出来ない」
特にためらいもなく、さらりと彼女は言い切った。

 

45: 総支配人 黒曜美咲6/8 2006/05/06(土) 12:48:15.70 ID:brORyulAO

……………………。

……これは……返事なのか。

いや違うな。拒絶されたんだ。俺からは何も言ってないんだから。

「そうか……そうだよな。俺の片思いだもんな。」
勝手に口から言葉があふれた。
「やっぱり知り合いでもないただの同僚に惚れられても困るよな」
自虐じみた笑いがこぼれる。

「……俺の気持ちに気付いてくれてありがとう。
嬉しかったよ、美咲」
自然と呼んだ。もう呼ぶこともないであろうその人の名を。

「……ようやく名前で呼んでくれたな」
今更されても困る嬉しそうな顔で彼女は言った。
「私は君の恋人になる事は出来ない。何故なら私は君に"惚れて"いないからだ」
惚れて、という言葉だけが妙に浮き上がって聞こえた。

 

46: 総支配人 黒曜美咲7/8 2006/05/06(土) 12:51:00.77 ID:brORyulAO

「だが―――私は君の事嫌っている訳ではない。むしろ好意を抱いている。
悪い客にたかられている高井君を、君は助けようとしていた。
私が止めていなければ君は高井君の方へ行っていただろう。
自分の仕事を放り出してまで仲間を助けようとする君に、私はひどく胸を打たれた。

……それに、君は私を見てくれた。
私の誘いを受け入れてくれた。
私と対等に接してくれた。
私のことを好きだと言ってくれた。
そして……親以外で、初めて私のことを名で呼び捨ててくれた。」

「・・・・・・・・。」

「――私はきっと、深澄の事を好きになる」
彼女ははっきり言った。

「だが、今は好きじゃない……いや、深澄を愛してはいない。
だから、君の事を愛せるようになるまで……事後承諾ですまないが……私と友人として、一緒にいてくれないか」
「………友達から始めよう、って事か?」
「そう取ってもらっても構わない。とにかく私は、これからも深澄のそばにいたい。
断ったように聞こえたかもしれないが、私は自分の気持ちに嘘はつけない。
だから、どうか離れていかないで欲しい。」

これは希望なのか。
彼女を信じていいのだろうか。
……いや、信じるしかないだろう。
俺は彼女に惚れてしまったんだから。

 

47: 総支配人 黒曜美咲8/8 2006/05/06(土) 12:52:34.53 ID:brORyulAO

「……黒曜さんがそれでいいって言うんなら。」
「そうか。ありがとう、深澄。
君は私がこちらに来て初めての友人だ」

友人、か。
改めて言われて悪い気はしなかった。

「よろしく頼む、深澄」
そう言って彼女は右手を差し出した。
「あぁ、よろしく。」
俺は彼女の手を握り返す。

どこかで聞いたやりとりに、もう違和感はなかった。

 

 

 

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