総支配人 黒曜美咲【VIP素直クールスレより】 過去編(未完)

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転載元:https://ex17.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1163679704/

38: 総支配人 黒曜美咲1/10 2006/11/17(金) 01:06:08.52 ID:R8SfLqidO

―――時々、悪い夢を見る。

見る度に、薄れかけた俺の片隅に影を落としていく。

未だに俺を縛り付ける、あのたった一晩の出来事。

…………あのひとの顔で目が覚めるのは、何度目だろう。

ああ、そういえば。

彼女と知り合ってからこの夢を見たのは、これが初めてだった。

 

 

39: 総支配人 黒曜美咲2/10 2006/11/17(金) 01:07:52.63 ID:R8SfLqidO

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夜中も1時を回ろうとする頃。
下らない深夜番組をつけっぱなしにしながら、30分も前に開けた缶ビールを一口含んだ。
とっくに気が抜けている。不味い。

今日は久々に早めに上がれた。
いつもなら従業員入口の脇で美咲さんを待つところだが、今日は違った。

ここ一週間、俺は仕事以外で美咲さんと全く顔を合わせていない。
帰省休みを取る為の残務整理やら引継準備やらで、彼女が毎年この時期は普段以上に忙しくなるのは知っていた。
しかし今年は、俺達と海に遊びに行ったりしたこともあってか、それが余計に切羽詰まっているのだろう。
………考えていたら少し、申し訳なくなり。

そんな俺に残された道は、美咲さんと知り合う前までの2年間ずっと繰り返してきた、
そして今も、美咲さんと帰りを共に出来ない日はそうせざるを得ない、ありふれた日常パターン。

さっさと帰って、さっさと寝る。これしかない。

だが今は夜中の1時。
何故俺は、こんな時間まで起きてビールを飲んでいるのか。

 

40: 総支配人 黒曜美咲3/10 2006/11/17(金) 01:09:23.77 ID:R8SfLqidO

それは……………怖いからだ。

情けない話だが、怖いのだ。いつも。あの夢を見た次の夜は。
だから、無理矢理酒をあおって眠ろうとするしかない。
それでも、布団に入る気にはなれない。例え眠くても、だ。怖いからだ。

そして今日は特にひどい。
依りかかれる人ができてしまった分、弱くなったんだろう。

ずっと話してないし。
たった一週間会わないだけで………意外と、くる。

それぐらい、俺の中の美咲さんは、大きな存在になっていた。

と、その時。

――――とん、とん。

インターホンではなく、扉を小さく叩く音が、聞こえた。

 

41: 総支配人 黒曜美咲4/10 2006/11/17(金) 01:10:21.51 ID:R8SfLqidO

こんな時間に一体誰だと顔をしかめて、けだるく立ち上がる。
もしかして、なんて。
子供みたいに都合のいいことを考えながら、レンズを覗き込んだ。

魚眼レンズのその先には―――まさに今思い浮かべていた、その人。

美咲さんが、立っていた。

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鍵を開け、ゆっくりと扉を開ける。
もう随分と見慣れた、メンズスーツを着た彼女が見えた。

「こんばんは。すまないな、突然こんな時間に」
「いや………起きてたし」
「それはよかった。部屋の明かりが見えたからそうとは思っていたんだが」
「ああ…………とりあえず、中入る?」
「ああ。そうさせてもらうよ」

扉を大きく開け、彼女を部屋へと促す。
先にちらかった部屋に戻り、小うるさいテレビを消し、ごちゃごちゃとしたテーブルの上をざっと片付けた。

 

42: 総支配人 黒曜美咲5/10 2006/11/17(金) 01:11:24.06 ID:R8SfLqidO

「お邪魔します」

脱ぎっぱなしのYシャツやらで散らかった部屋を小綺麗にしていたら、後ろから丁寧な挨拶が聞こえてきた。

…………全く持って、律儀な人だ。
そういうところが、いいんだけど。

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「どうしたの、こんな時間に」
こじんまりと正座する彼女とテーブル越しに向き合いながら、聞く。

「久々に顔を合わせたいと思ってな。今日はまだ早めに上がれたし」
何とも率直な答えが返ってきた。

「……寝てるかもしれなかったのに?」
つい、意地悪なことを聞いてみたりして。

「寝ていないかもしれないだろう。事実そうじゃないか」

「ああ………………

……………まぁ、そうだなぁ。」

 

43: 総支配人 黒曜美咲6/10 2006/11/17(金) 01:12:39.96 ID:R8SfLqidO

顔を合わすため。
それだけのために、起きているかもわからん俺のとこまで来てくれたんだ、この人は。
その心遣いが、無性に嬉しかった。

でも。
そう言ってくれた彼女は、それほど明るい顔はしていなくて。

そして付け足すように、

少し、心配でもあったし。

と、言った。

「…………………………。」
あっけに取られた、というか。

ああやっぱり、美咲さんだなあ、と、思った。

「今日一日、元気がなかったようだが。
…………何か、あったのか。深澄」

「……………………………。」

「よかったら、話してくれないか」

言葉を返せない。

いつの間にか俺は、ささくれ立った畳に顔を向き合わせていた。

 

44: 総支配人 黒曜美咲7/10 2006/11/17(金) 01:13:42.52 ID:R8SfLqidO

「………辛いなら、話さなくていい。私だって知りたいとは思わない。
たが、君が話して楽になれるのなら、私でよければ話して欲しい。」

…………どうやら俺は今、そんなに心配されるほど酷い顔をしているらしい。

確かに瞼はまばたきで落ち着かないし、
手は何かをこらえているようにぐっと握られて膝に押し付けられているし、
眉間にはさっきから皺が寄りっぱなし。
さながら、親の説教を我慢している時の子供みたいなんだろう。

……そりゃあそうだ。

だって、いきなりそんなこと言われたら。

そんなこと言われたら、どうすりゃいいかわかんねえじゃねぇか。

「君がそんな顔をしているのを見ていると、私も辛くなる。
私を好いてくれている人が苦しんでいるのを見ているのは、私も苦しい」

なんで。
なんで、この人は。
こんなにも感情を顕さない顔をしているのに。

こんなにも簡単に、人の琴線に触れられるんだろう。

 

45: 総支配人 黒曜美咲8/10 2006/11/17(金) 01:14:56.72 ID:R8SfLqidO

「大事な人の悩みを、お互いに共有していたいと思うのは……………勝手だろうか?」

「……………………!」

そうだ。
この人は。美咲さんは。

ただ自分の感情に、素直なんだ。

だから惹かれたんだ、俺は。

だから、俺は、っ………………!

「く…………………うっ…………!」

ただただ俺を気遣ってくれるのが嬉しくて、でもやっぱり申し訳なくて。

年甲斐もなく、目元を覆って泣いた。

 

46: 総支配人 黒曜美咲9/10 2006/11/17(金) 01:16:02.92 ID:R8SfLqidO

「……そんなに、辛かったのかね」
彼女は優しく諭すように、俯く俺に話しかけてくれた。

「っふ、違うんだ…………………」
涙で、うまく声が出せない。

「………何がだ?」
「いや、ぅ、こんな話、一生する機会、ないと、思ってて………」
「…………………………。」

「けど、言わなきゃいけない、ことで………」
「ああ」

「………初めて、話す気になれたから……………」
「うん……………」

「……………ありがとう………………………。」

この人になら、話せるかもしれないと思った。

だから好きになったんだろう。
こうして仲良くなることもできた。
…………あれから初めて、自分から好きだと言うことが出来た。
同じ過ちを恐れて、逃げて。好きだと言えなくなっていた自分が、初めて。

そうだ。元はといえば俺は、この人の生真面目な、俗っぽくないところに惚れたのかも知れない。
この人なら、あんな事にはならないと思ったから。
………それは俺の、身勝手な思い込みだけれど。

 

47: 総支配人 黒曜美咲10/10 2006/11/17(金) 01:17:01.87 ID:R8SfLqidO

すう、と一つ、息を吸って。

…………あの夜のことを、話した。

 

管理人追記:

残念ながらこれ以降VIP本スレに続編の投稿はありませんでした。

別スレ、独自サイトへの投稿の情報がありましたらコメント欄やお問い合わせフォームから、何卒よろしくお願いします。

 

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