総支配人 黒曜美咲【VIP素直クールスレより】 海編

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https://ex16.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1160917920/

 

122: 総支配人 黒曜美咲1/7 2006/08/17(木) 01:25:06.30 ID:s2Be4S25O

ザザーン。

「……暑い」
『そうだな暑いな』
「……ハタチも過ぎたいい大人が、何しに海まで来てんだろな」
『さあな。詩織に聞いてくれ』

ザザーーン。

「夏だから海って、安直過ぎやしないか」
『あーもうやかましいなお前は!連れてきてやってんだから黙って楽しめ!』
「何キレてんだよ」
『お前がブツブツ言うからだろーがお前が。だいたいオトコオンナで海に来るって時点で、男は眼福なんだよ!幸せなんだよ!おかげでお前だってあの美人の水着姿拝めるんじゃねーか。もっと喜べ!』
「お前は………。」

何故俺が、この大海原を前にして浅谷と言い合っているのかと言えば……
予定外お泊まり出張というブラックマンデーからよ~やく立ち直りかけていたあの日――――。

……あの一週間前に、遡らなければならない。

 

123: 総支配人 黒曜美咲2/7 2006/08/17(木) 01:26:07.21 ID:s2Be4S25O

-----

『こたえーはーいつもわーたしーのむねにー……』
7月も終わり、季節はいよいよ夏本番。ひどく暑苦しい中虚しく首を振る扇風機が送り出す生ぬるい風を浴びていた……そんな時、テーブルに置いた携帯電話が鳴った。
あーうるせーうぜー。暑い。鳴ってんのも鬱陶しい。
この着メロメールの時のだし慌てることもねぇだろ―――なんて不精なことを考えながら、震えて不快な音をたてる携帯を手元に引き寄せた。
ったく誰からだよ………って高井か。

前話したみんなで遊びに行く話だけど、来週の水曜に海行くことになったから。
朝9時、篠田まで迎えに行くから二人で待ってて。

―――――ん?

そのメールを読んだ時、何故か俺は妙な違和感を覚えていた。しかし、

んんん……………。
……まあいいや。

暑さにやられた脳みそにそんな些細な事柄が長いこと居座れるわけもなく、思考はメールの内容へと移っていった。

 

124: 総支配人 黒曜美咲3/7 2006/08/17(木) 01:27:42.81 ID:s2Be4S25O

遊びに行く……ああ。アレか。
忘れてたなぁ……あいつも忘れてると思ってたが。
ただもうちょっと早く言って欲しいもんだな高井。いちいちシフト替わってもらうのもバイトみたいに楽じゃねーのはお前も知ってるだろうが!

……しかし海か。何年ぶりだろ。
これまた微妙なチョイスだよなー……これじゃ2対2っつーか4人でわらわら遊ぶって感じだ。まあいいけど。
疲れそうだなあ……この年にもなって何すりゃいいかなんてわからんぞ。けど泳がなきゃ暑いだろうし……って遊びに行くのに何でテンション下がってんだ。
夏バテかなぁ……そういや最近冷麺しか食ってないな……まあどうでもいいけど。

とりあえず美咲さんに電話しとくか。この時間ならもう退社してるだろうし……準備がてら買い物にでも誘うかな。

高井に『了解』と短く返信し、そのままアドレス帳を呼び出して美咲さんに電話をかけた。

プルルルル……プルルル――プツッ
『はい、黒曜です』
「あーもしもし、俺ですけど。もうあがってる?」
彼女の電話口の始めの受け答えは必ず丁寧語だ。そのおかげで、いつも俺までつられて丁寧語で返してしまう。
その上「川島です」だと仕事中みたいで嫌だと彼女が言うものだから、この通り俺ですけど、なんていう妙ちくりんな返事が美咲さんとの電話では定着してしまっているのだ。
『ああ。今ホテルを出たところだ。で、何かね?』
「そう、お疲れ様」
『ありがとう』
「いや、今高井からメール来てさ」
『ああ』
「前話したの覚えてる?ほらなんかあいつが男連れて遊びに行くから俺達も――っていう」
『知っている。海に行くと』
―――――ん?

 

125: 総支配人 黒曜美咲4/7 2006/08/17(木) 01:29:08.05 ID:s2Be4S25O

「あれ、知ってたの?」
『ああ。先週彼女から直接聞いた』
ああ……あのヤロウ、俺には言うのが遅いとはどういうつもりだ。
「あ、そう………海らしいけど」
『ああ。楽しみだ』
それを皮切りに、彼女は堰を切ったように話し始めた。
実家が海に近いからよく泳ぎには行ってただとか、でも友人と一緒に行くのは初めてだから嬉しいだとか。
ほんの少しだけトーンを上げて話す彼女は、なんだか実に楽しげだった。
『何か持っていった方がいいだろうか。ビーチボールとか』
―――――こんな風に。

-----

「……そもそも泳ぐってこと自体久しぶりだからさ、水着なんか学生の時のしかないし……あ、そうだ」
『ん?』
「今度さ、海行くのにいろいろ買いに行かないか?どうせなら俺も新しいやつ買いたいし」
この時俺は、美咲さんも水着なんて持ってないだろう、準備も整っていないだろうと勝手に思い込んでいた。

『水着なら私はもう持っているんだが』

「――え?マジで?」
だからそう言われた時は、非常に失礼だとわかっていながらも―――正直、すごく意外だった。
あー……何だ、これ。なんか…………。

 

126: 総支配人 黒曜美咲5/7 2006/08/17(木) 01:30:45.78 ID:s2Be4S25O

『ああ。だが君が行くのなら付き合うぞ』
「いや、いいいいいい!」
妙な雑念に捕らわれている時にそう言われたものだから、つい頭ごなしに断ってしまった。
『む……別に遠慮はいらんぞ?』
だが、実際海パン一丁のために彼女をわずらわせるわけにもいかないだろう。改めて丁重にお断りしておく。
「いや、本当にいいって。美咲さん買うもんないんなら、あんまり意味ないし」
『私と君が一緒にいるのに、意味が必要かね?』
「ぇえっ!?」
思わず声がうわずる。
この人は突拍子もなくこういうことを言ってくれるから困る。
「いやあの……まぁそうかも知れんが、その……ほら!別にそう言う意味で言ったんじゃなくてな」
『………そうか。用はそれだったのかね?』
「ん?いやまあ……誘ったのは連絡ついでだけど」
『そうか。すまなかったな、長話してしまって』
「いやぁいいよ。こっちだって急いでたわけじゃないし」
『ああ……そうだ』
「ん?」

『新しい水着を買ったから、楽しみにしておいてくれ』

――――――え。

『それじゃあ。また明日ホテルで』
「あ、おう……」

ブツッ。

 

127: 総支配人 黒曜美咲6/7 2006/08/17(木) 01:32:28.48 ID:s2Be4S25O

はあーー……。
楽しみにしといて、と言われたのは嬉しかったけど。
何故俺は今、それを放り出して妙な違和感に気を取られているのだろう。
いや今だけじゃない、会話の節々にちくちくと感じていたものだ。
嫌な感じはしないんだが……何なんだ。胸騒ぎがする。

―――ま、どうでもいいか。
気にしないことにした。別に俺はリスクセンサーなんて持ってるわけじゃないし。
それより言われたからには楽しみにしようじゃないか。ビキニ?ワンピース?色は?ああもう煩悩爆発なんだぜ?

-----

『美咲ちゃん日焼け止めは?』
「塗っていない」
『そのカッコで!?焼けちゃうよ~?』
「ふむ……今までこんなに肌を出したことがないからな」
……ちなみに彼女、黒のノースリーブにGパンという美咲さんとしてはかなり斬新な服装だ。
最初駅で見つけた時も一瞬わかんなくて二度見しちゃったからな……
「美咲さんもそんな服着るんだな……」
誰にともなく呟く。
今いるのは、浅谷運転のワンボックス内。そして
『えへへぇ~』
助手席からわざわざこっちを向いて、何故か俺に向かって笑いかける高井。一時間もその姿勢で疲れねえのか?

 

128: 総支配人 黒曜美咲7/7 2006/08/17(木) 01:33:56.48 ID:s2Be4S25O

「どうだろう、似合っているだろうか」
隣に座る美咲さんにそう聞かれる。
惚れてる女に似合わないなんて言うバカはいないが、別にこれは建前ではなく。
実際彼女は何着たって似合います。
「ああ、似合ってるよ」
でもそんな格好されると目のやり場に困るなあ……肌とか綺麗だし。なんか体のラインも目立つし。
「そうか、ありがとう」
『えへへぇ~』
だから何でお前が笑うんだよ。

『お、見えた』
と、ずっと運転に集中していた浅谷がふと呟き、全員の視線が前に集中する。
『わぁ~~!』
海が見えた。
「おお……きれーだな……」
なんか海面がきらめいてたりなんかして。高井の目もきらめいてるな。ガキか。

ふと視線を右に移すと、美咲さんも珍しく海に見とれているようだった。

「……楽しみ?」

そっと、語りかける。

「…………ああ」

ぐっと噛みしめるように、彼女は言った。

――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
――――

66: 総支配人 黒曜美咲1/7 2006/08/24(木) 02:13:15.12 ID:b+pK2RbPO

『で、どーなのよ』

海に着き車を停め荷物を下ろし着替えを済ませ人で賑わう砂浜で何とか場所を見つけシートを敷きパラソルを立て、そして後は女性陣を待つのみ。
眼福がどーだ女の水着がどーだと無駄に講釈を垂れるバカをなだめすかし、ようやく落ち着いたかと思われたときに飛び出したセリフがそれだった。

「何がどーなんだよ」

その短い質問に、どういう意味がこめられているのかぐらいわかっている。
だが、あえてはぐらかした。
『あの美人との関係を洗いざらい吐けと言ってる』
「関係も何も俺の勤め先のホテルの支配人だよ」
『んなこた知ってんだ。とりあえず揉み心地とか抱き心地とか語ってもらおう』
「バカかよ」
そりゃあもう言っちゃえば『……いい』の一言に尽きるけども。それは言わない。
『お前あんな堅そうなのどうやって落としたんだ?』
堅そうなの、という比喩に少しだけイラッときた。
「落としたとか言うなよ」
わかってて聞いてる。だから言わない。
『お?なんだどうした。ゾッコンラヴですか?』
「うるせえ」
ああうるさい。こいつもだけど周りも子供やら大人やら入り乱れてやかましい。
そういやあこいつとこうやって話すのも久しぶりだ……酒でも飲みながらだべりてぇなあ…………

 

68: 総支配人 黒曜美咲2/7 2006/08/24(木) 02:14:15.83 ID:b+pK2RbPO

『お前もついに女に言い寄るようになったかー……父さん嬉しいぞ』
「やかましい」
これも言わない。
『……で、付き合ってどんくらい?』
「まだ付き合ってねーよ」
『はぁ!?嘘だろ!?』
「こんなことで嘘ついてもしょうがないだろうが」
『お前、あれだけ……!! …………ふぅ。まあいいや』
煮え切らないまま、続いた。

『…………あっちからだろ?また。』
何だかんだ言い合っても、結局こいつにはバレてしまうのだ。一番、大事なところが。

だがな、今回の予想はハズレだ。残念だったな浅谷。

「……いい人だよ。あの人は。」

『…………そか。』

初めて予想を裏切ったその反応は、案外、薄かった。

『――――大事にしてやれよ。あの子』

ぽつりと言われた。
さっきからこいつは、ずっと正面を向いたままだ。

 

69: 総支配人 黒曜美咲3/7 2006/08/24(木) 02:15:42.87 ID:b+pK2RbPO

『お前は気付かんでもいいから、気付かせてやれ』

「………………………」

『……わかんねえんならいいよ。まだ付き合ってないんだろ、お前ら』
「……何なんだよ、意味わかんねーよ」
『だからわからんならいいって』
「だから何だって聞いて―――」
意味不明なことを連発する浅谷に食ってかかろうとした、その時。
『なに話してるの?』
「―――――ッッ!」
藪から棒に背筋が凍りつくような声をかけられ、即座に後ろへ振り向いた。

薄い黄色のビキニに短めのパレオを腰に巻いた高井が、無邪気な顔で俺達を見下ろしていた。

『ん?』
こくりと首をかしげて、どこか冷徹さが混じった笑みを投げかけられる。
こんなに暑いはずなのに、ゾクリと全身に嫌なものが走った。

―――こいつ、時々なんかマジで怖いんだよな…………
そう思いながら何となくジト目で高井を睨んでみた。

ほんとこいつはちっちゃいなー……
化粧薄くなると意外と地味な顔してるし。
……けどこいつ、こんなに体つきよかったかな………着痩せするタイプ?
男なら避けられないエロチェック(造語)を済ませていると、すいと浅谷が立ち上がった。

 

70: 総支配人 黒曜美咲4/7 2006/08/24(木) 02:17:06.24 ID:b+pK2RbPO

『おせぇぞー。いつまで待たすんだよ』
『これの結び方わかんなくてー……ごめんね待たせちゃって』
手のひらを返したような明るい笑顔を浮かべながら甘々光線を撒き散らす高井。
『ふーん………いいじゃん、それ』
『えへへ……ありがとぉ』
テメーラかき氷のシロップにでもなれや。
『んじゃ行くか』
『うん!』
と、何事もなかったかのように奴らは海に向かって歩き出した。
「……っておい!浅谷!」
背中を向けてどんどん離れてゆくバカップルの片割れに大声を飛ばした。
こっちは未だにさっきのが気がかりなのだ。だいたい俺一人残してカップルでどっか行かれたら死にたくなるわ。
『ンだよ……』
「だから何なんだよさっきの!」
『もういいだろ!お前もしつけぇなあ』
「な…………」

『だいたいせっかくこんなとこ来てんだから。お前も、楽しめ。な?』
そう言い放ち、ヤツはこっちを、いや、正確に言うならば俺の少し右上を指差した。

はっとして、振り返る。
視界を遮るパラソルの向こうに、綺麗な肌をした下半身が見えた。

ゆっくりと、立ち上がる。
目が合う。

「待たせたな。どうかね?」

美咲さんが、立っていた。

 

71: 総支配人 黒曜美咲5/7 2006/08/24(木) 02:18:49.83 ID:b+pK2RbPO

楽しみにしてと言われた、少し暗い赤のビキニを着けて。
普段は見ない小さなネックレスなんかも付けていて。
いつもなら彼女の動きに合わせて奔放に流れる長く艶やかな黒髪は、ピンで綺麗に後ろにまとめられていて、強い夏の陽射しを浴びて緑に光って。

二度目に見る柔肌も、前のような生々しさはない。実に綺麗だ。

「…………いい」
不覚にも、さっき浅谷と話していた時に思い付いたセリフを無意識に反芻していた。

「そうか、いいか。よかった」
この騒がしい中で俺の、独り言に近い呟きを聞き取ったのか美咲さんは、そう言いながらシートを回り込んでこちらへ歩いて来た。
そして、ただ見とれて呆然と立ち尽くす俺の隣に座った。何故か正座だ。
自然と、俺も腰を降ろす。

「深澄、すまないが日焼け止めを塗ってくれないか?」
「へ?あ!あぁおう!」

急に普通のことを言われて、妙にテンパってしまった。
そうだ今日は遊びに来てるんじゃないか何シリアスになってるんだよ俺落ち着けよ、って

日焼け止め?

「ありがとう。では頼む」

そう言って彼女はわざわざこちらを向き、背中に手を回し、ためらいなく紐をほどいた。

 

72: 総支配人 黒曜美咲6/7 2006/08/24(木) 02:20:14.21 ID:b+pK2RbPO

はらり。

ぽろり。

……ぽろりは違うな。自主的だもん。
「なな何脱いでんだよこんなとこで!!」
そんな下らない思考に気を取られて2秒ほど静止した後、その間にうつ伏せになっていた彼女に向かって俺は思わずそう怒鳴りつけていた。
「外さなければ紐が邪魔だろう。さ、頼む」
平然と言ってのけ、UVカットと書かれた瓶を手渡す彼女。
「あのなあ……」
あまりにも当たり前に言うものだからこちらも強く出られず、何だかもどかしいまま俺は瓶を受け取った。
中身を手に取って適当になじませ、無防備な背中に手を伸ばす。

ぬりーーーっ

うわーなんかやわらけー………うなじまる見えー………
いやもう大概抱き合ってしまったりなんかもしたけどもやっぱ状況が違うだけで気分も変わってくるもんだよなー……って何だよこの思考回路は。すっかりオヤジじゃねーか。

煩悩に身を任せている自分がいたたまれなくなり、逃げ口上代わりに美咲さんに話しかける。

 

73: 総支配人 黒曜美咲7/7 2006/08/24(木) 02:21:08.03 ID:b+pK2RbPO

「……こういう人の多いとこで脱いだらだめだろ」
「私は人に裸を見られるのに特に抵抗は感じないんだが」
「それは直したほうがいいぞ」
ぬりぬり。
「うむ……だが何故だろう、今日は何となくあまり人に見られたくないと思った」
「それでいいんだよ」
「……見られるなら君に、と思った」
ぬるっ!!……ぬりぬり…………
「……何言ってんだよ。そんな軽々しく裸見せるもんじゃないだろ」
「好きで見せているわけではないぞ」
「わかってるよ。なるべく見られるような機会をつくるなって意味」
「………そうか、そういうものか」
「そう。」

「―――――そうだな」

「―――――そうだよ」

 

 

74: 総支配人 黒曜美咲 おまけ 2006/08/24(木) 02:22:38.95 ID:b+pK2RbPO

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おまけ
俺の番

「ありがとう。さて、次は君の番だ」
「え?俺はいいって」
「駄目だ。焼けた肌でフロントに出ることなど許さん」
「……公私は混同しないんじゃなかったか?」
「だからこそだ。私事の影響を仕事に出すわけにはいかない」
「……なるほどな。わかったよ」
「では横になってくれ」
「んー」
「よし。では塗るぞ」
ぬりぬり。
「……でもさ」
「何だ?」
「どうせスーツだし、焼けてもあんまり関係ないよな」
「………ふむ。確かにそうだな。では深澄、一度起き上がって目をつむってくれ」
「?あいよ……っと。はい」
「よし」
ぬりーーー
「どわあ!顔!?いや自分で!自分で塗るからアッー!!」

――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
――――

106: 総支配人 黒曜美咲1/8 2006/09/04(月) 01:01:22.97 ID:6cXpReJWO

「…………………………。」

「…………………………。」

「……………あちい………」

「うむ………………………」

「…………………………。」

「…………………………。」

「…………………………。」

「…………………………。」

『…………………………。』

……………………………………………。

『………お前ら、ずっとここいたのか』
「……おう」
体中に海水をくっつけて、高井と浅谷が戻ってきていた。

 

107: 総支配人 黒曜美咲2/8 2006/09/04(月) 01:02:31.65 ID:6cXpReJWO

時計を見てみる―――ああもう1時か。飯時だな。
『泳がなかったの?』
「んーまあな……」
一応水には入ったけれども。その後が続かなかったんだな。
元々バカ騒ぎするのはあまり好きな部類ではないし、それは彼女も同じっぽいし。
海での遊びってのは、えてして映画とかだと海で戯れてる動き無しセリフのみのカットを連続で入れたりすることで「何かしら遊んでいた」感を演出したりするわけだが、
俺達はそんな表現技法で済ませられるほど器用ではないのだ。まあ実際ほとんど動いてはないんだけどな。
そんなわけで一回膝までつかって、すぐにここまで戻ってきて、そのまま。
ずっとまったりしてました。相変わらず周りは家族連れとかでうるさいけど。
……隣で一緒にいるだけで楽しいなんて、ちょっと俺はバカになってるんじゃないかと考えたりもした。

『………まあいいけどな。そろそろ飯食おうぜ』
あきれたように浅谷が言った。

「どうすんだ?」
『どうしたい?』
どうしたい、って聞かれてもなあ……

『ちなみに食いもんなんて何も用意してないから』
じゃあ店行くしかねえじゃねーかよ。

 

108: 総支配人 黒曜美咲3/8 2006/09/04(月) 01:04:06.56 ID:6cXpReJWO

「じゃどっか行くかー……美咲さん何か食べたいもんある?」
と左を向いて、シートに座ったときからずっと正座のままで黙って俺達の話を聞いていた美咲さんを見てみると、何だか妙に呆けているというか……
基本どんなときでもキリリとした雰囲気を持っている美咲さんが、その時はまるで普段の高井みたいにぼんやりとしているように見えた。

「……どうしたの?」
「ああ。楽しいんだ」
どことなく(普段と比べれば僅かに)おぼつかない口ぶりで、彼女は答えた。
「楽しい?」
「ああ、楽しい。こうやって君と並んで座っているだけでも、こうして仲間同士で気兼ねなく話しているだけでも、私は楽しい」

さっきまでの長い長い空虚な時間の中で、『美咲さんも俺とおんなじ事考えてんじゃねーかな』なんてことも考えていた。
正直わりと確信めいたものがあったのだが、やはりその通りだった。
しかし、それを感情として平然と口にできてしまうのが彼女なのだ。
思わず、苦々しく笑った。

浅谷も苦笑いを浮かべながら
『はー……ごちそうさまです』
とか言っているし高井は
『美咲ちゃん……かわいい……』
などと馴れ馴れしいことをほざいている。
何となく真面目に答えを返すのも気まずくて、車の中で海を見つめていた時と同じ目で、今度は俺を見つめる美咲さんにむかって俺は
「そりゃよかった」
なんて、馬鹿でも考えつくような言葉しかかけてあげられなかった。
二人して立ち上がって、四人で店の方へ歩いていった。

 

109: 総支配人 黒曜美咲4/8 2006/09/04(月) 01:04:55.10 ID:6cXpReJWO

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少しだけ後悔した。

―――友人らしい友人と出かけたこともなくてな―――

一週間前の電話口。いや、それよりずっと前からわかっていたこと。

……もっと気の利いた一言でも言ってやれなかったのか。

俺だって、同じ事を想っていたのに。

俺の少し前で、高井の隣を歩く彼女。
並んで話しながら、薄く湛える笑みとは裏腹に、少しだけ、ほんの少しだけ。

彼女の背中は、寂しげに見えた。

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110: 総支配人 黒曜美咲5/8 2006/09/04(月) 01:06:42.63 ID:6cXpReJWO

『美咲ちゃん……ちょっと川島君借りてもいいかな?』

俗に言う海の家というやつ。
そこに入り、各々ラーメンだの焼きそばだのを食べ終えてしばらく一服していた時に、高井が切り出した。

「深澄は別に私の所有物ではない。借りるというのはいささかわからん話だな」
『ぅえ!?あ、あの……じゃあ…………』
くそ真面目な返答に困惑する高井。
「俺に何か手伝って欲しいから連れてってもいいかって聞いてるんだよ」
すかさずフォローする。このままではこの暑さも相まって高井の脳がとろけかねない。
「そういうことか……ならば、何故私に聞くのかね?」
うん。その通りだ。
何でこいつは俺には聞かずに美咲さんに聞くんだよ。俺に選択権は無しか?
『あう…………えと………………』
ふはは、いい気味だ。
もっと苦しむがいい。

『……ま、こいつもいろいろ気にしてんだよ。そこはいいよって言ってやってくれ』
と、顔をうつむけて困り果てる高井の濡れたセミロングをぽんぽんと叩きながら、今度は浅谷がフォローを入れた。
「ふむ……わかった。高井君、構わないよ」
『ありがと!』
許可を聞いた高井は、美咲さんに言ったのか浅谷に言ったのかよくわからない礼を短く済ませて立ち上がり、俺の隣まで来るなり腕をひっつかんでずかずかと歩き出した。
うわ、なんだこのデジャヴ。
俺は意外に力の強い高井に引っ張られながら振り返り、
「すぐ戻るから……」
と、苦し紛れに美咲さんに告げた。
「ああ」
と、あっさりとした返事で彼女は俺を見送ってくれた。

 

111: 総支配人 黒曜美咲6/8 2006/09/04(月) 01:08:37.12 ID:6cXpReJWO

-----

『はい、これ』
「……何なんだよ」
差し出されたのは、少し冷えの弱い缶ビール。
そして今腰掛けているのは、すこし海岸線から離れた石段だ。
『たこ焼きってこっちの方にしか売ってないんだ……ごめんね?』
などと言いつつ、高井はさほど悪びれる様子もなく栓を開け、豪快に缶を傾けた。
「まだ食う気か………お前、あんまり飲むなよ」
『はぁ……だいじょーぶ、これだけだから』
すでに飲み干していた。やっぱこいつは飲ましちゃいけねえな……
「だいたいそんな用事だったら浅谷連れて来りゃいいだろ……」

そう言ったところで、ふと気付いた。
―――そうだ。何でわざわざ俺を連れてきたんだよ。
そして高井の方を見ると、案の定何かを企んでいるような怪しい笑みを浮かべていた。
『……洋介君、ずっと運転してたし遊んでたし、こんなことに付き合わせるのも悪いかなって』
普段のポケーッとした顔ならともかく、今の冷笑で言われると嘘臭く聞こえてしょうがない。

「……何の用だ」
『美咲ちゃんの水着、かわいかったでしょ?』
「はあ?」
まるで見当違いな言葉に、思わず奇声を上げて疑問を表す。
『足長いからジーンズもよく似合うし』
? 何言ってんだこいつ?
『細いから腕も出せるもんね。羨ましいなぁ』
…………………………………。

 

112: 総支配人 黒曜美咲7/8 2006/09/04(月) 01:10:22.28 ID:6cXpReJWO

『ね、川島君』
「……………あ?」
『美咲ちゃんに、なんて言ってあげたの?』
「何にだよ」

『言われたでしょ?「新しい水着を買ったから、楽しみにしておいて」、って』

「!!」
待て、何でそれをお前が知ってる!

『でも川島君すごいよねー、美咲ちゃんの服に当たり障りないことしか言わないんだもん。女の子って、人に選んでもらった服誉められても嬉しくないものなんだよ』

…………もしかして。

―――先週彼女から直接――

―――もう持っているんだが――

―――楽しみにしておいてくれ――

「お前……いつの間に……………」

 

113: 総支配人 黒曜美咲7/8 2006/09/04(月) 01:11:49.06 ID:6cXpReJWO

『すごいね~。二人とも、おんなじ駅前で家も近いんだよね。なんか運命感じちゃう~!』
そんな事話した覚えは―――

―――篠田まで迎えに――

―――二人で待ってて――

………………!!
そうか、そういうことだったのか…………。

「お前…………何聞いた?」
『えへ………何から、聞きたい?』

無邪気、に見えて、最高に愉しそうな笑い顔。
さしずめ、悪魔。
同じ露出の多い悪魔でも、よっぽどタチが悪そうな。そんな顔つきで、高井は言った。

 

519: 総支配人 黒曜美咲1/8 2006/09/14(木) 03:10:08.49 ID:no0rd9p2O

「じゃあ、言わせたのはお前か」

『え?なにが?』

目の前の悪魔は、明らかに「判っている」ようなしたり顔で聞き返してきた。
「だからアレだよ、あー、あれ、楽しみにしといてだのどうのこうの」
『あー照れてるんだかわい~!!』
こいつ…………
「お前な…………」
『あ、それ飲まないんならちょーだい』
焦るのに夢中で脇に置きっぱなしにしていた缶ビールを差して、高井が言う。
「……………ほれ」
『ありがと!』
随分とぬるくなったそれを手渡すと、いつものように一気飲みはせず、一口だけちびりと含んだ。
そして軽く一つため息をつき、高井はようやく話し始めた。
『先々週の火曜に、美咲ちゃんと買い物しに行ったの』
……やっぱどっか行ってたのか。しかしまあいつの間にそんな仲良くなったんだ?
「ふぅん……それで?」
『今日の水着と服もその時私が選んであげたんだ。どお? 似合ってたでしょー』
誇らしげにのたまう高井。

ああ……車ん中で妙にニヤついてたのはそれか。
どうりで普段と美咲さんの服の印象が違うわけだ。こいつもたまにはやるじゃねーか。

 

521: 総支配人 黒曜美咲2/8 2006/09/14(木) 03:11:29.63 ID:no0rd9p2O

「ああ……まあな」
『でしょー!? あの水着駅ビルの「sneg」で買ったんだ~』
俺の言葉に気を良くしたのか、高井はさらに勢いを増して喋り始めた。
自分の選んだ服が誉められたら、他人が着てても嬉しいってか。お前はデザイナーか!

『水着のアレも冗談で言ってみたつもりだったんだけど、ホントに川島君に言うなんて思ってなかったなぁ~』
………………………こいつ絶対わかってやってたな……………

……そしてまあ、その後は。
「スーツ見たいとか言い出してびっくりした」とか、「仕事中と素が全然変わらないのがすごい」だとか。
俺にとってはわりと知り尽くされたようなとりとめのない話を、高井は延々続けた。

『美咲ちゃんってあんまりお化粧しないらしいんだけど……』

……そして僅か数分後には、俺はすっかり聞き手に徹するハメになってしまっていたのだった。
『「君は化粧などしなくても十分かわいらしい」なんて普通に言われちゃったら、こっちが恥ずかしいよ~』
……あーうるせー。

 

522: 総支配人 黒曜美咲3/8 2006/09/14(木) 03:12:47.25 ID:no0rd9p2O

-----

『……でその後カフェに入ったんだけど、その時の美咲ちゃんがまた面白くて……』
「うん……………」
投げやりな相槌を打つ。

未だに高井の買い物話は続いていた。
正直、他人の土産話ほど退屈するものはない。
炎天下延々と話し続ける高井に、俺は完全に辟易していた。
『座ったらいきなり「今日は誘ってくれてありがとう」なんて言われちゃって。そんなにかしこまられても困っちゃうよね~』
「おう…………………」
まあそういう人だからなぁ……きっと誰が相手でも変わんないだろうな。

『それで、川島君とはどう?って聞いてみたら、「一緒にいると何してても楽しい」だって!』
「ああ…………………………あ?」

…………あああああああああああああああああ!!!???

「おい!ちょっと待てお前!」
『らぶらぶだなぁって……………なに?』
とんでもないことを口走っておきながら、それを意にも介さず話を続けようとする高井に俺は思わず制止をかけた。

 

523: 総支配人 黒曜美咲4/8 2006/09/14(木) 03:14:16.38 ID:no0rd9p2O

「お前……………何聞いてんだ」
『何って……川島君とはどう、って』
「そうじゃねえよ!何でンなこと……」
『女の子同士でそういう話が出ないわけないじゃん~』
さも当たり前のように宣言しやがった……
「いやあの、そりゃいいけどさ、何でそんなことわざわざ俺に話すんだよ!」

『………………………………。』

と、その途端。
今が今まで満面の笑みでまくし立てていた高井は急に訝しげな表情になり、黙り込んだ。

「…………どうした?」

『……聞きたくないの?』

「いやまあ、聞きたくないっつーか、何つーか…………」

『……………聞かなくて、いいの?』

「!」

僅かに言い方を変えただけ。
だが俺には、はっきりとこう聞くことが出来た。

――――自分がどう思われてるのか、知りたくないのか―――と。

…………こりゃあ、お手上げだ。

 

524: 総支配人 黒曜美咲5/8 2006/09/14(木) 03:15:31.14 ID:no0rd9p2O

「……お前、ホント恐いよ」
今までの、精一杯の皮肉を込めて言ってみた。
だが、

『ふふ。女の子は、こーゆー話が大好きなの!』

それをものともせずに末恐ろしい事をのたまう高井を見て、俺は早々と覚悟を決めることにした。 ……というより、諦めた。
逆らっても無駄だ、と思ったのだ。今の高井には。

「……聞かせてもらおうじゃねーか。」
『待ってました♪』
そう言い放ち、ビールの残りを一気に飲み干した。
一度上がって戻ってきた顔に貼り付いているのは「あの」笑顔。
……と思いきや、その顔つきは真面目なままだった。

-----

『あのね、』
「おう」

きっと彼女のことだ。何でもかんでもストレートにぶっちゃけちゃってることだろう。
ならば後は「他人から聞かされる」という羞恥に耐えるのみ!
こっちは普段からストレートに言われるのには慣れて…………

『美咲ちゃん、絶対川島君のこと好きだよ』
がふぁ!!

 

525: 総支配人 黒曜美咲6/8 2006/09/14(木) 03:17:01.47 ID:no0rd9p2O

「な、何いきなり勝手なこと言ってくれやがる!」
あああ、なんか早速顔熱くなってきたぜ?

『だって美咲ちゃん、川島君のどんなとこがいいのって聞いたら
「気に入らないところがない」とか「良くも悪くも自分に厳しいところがいい」とか言い出すし。
普通友達にそこまで言えないよ?』
「そ、そうか…………」
『ご飯おいしいって言ってもらえたのが嬉しかったなんて、もう完全に恋する乙女って感じ~!』
「………………………。」
『あと「一緒にいるだけで、何もかもが輝いて見えるようだ」とか…………聞いてるこっちが恥ずかしかったよ………』
安心しろ俺もだ…………
『あ、そういえば。』
「…………あ?」
バッ、と両腕を広げたかと思うと、その手で自分を抱きしめるようなジェスチャーをしながら、
『「いなくなったりなんかしない。俺はずっと美咲さんのそばにいるから」……だっけ?』
と、男っぽい声まねで言った。
「…………………!!」
ドクン。
『あと何だったかな~………あ!映画館でずっと手握り合ってたってホント!?いいなぁ~私もしたいなぁ~!』

「―――ヤメロ」

やめろやめろやめろヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ――――――

…………そして次に気付いた時には、高井は17個に解体され―――――
……なんてことはなく、俺は悪ノリして暴走を続ける高井に懇願し、どうにかこうにかこの羞恥地獄を終止させたのだった。

 

526: 総支配人 黒曜美咲7/8 2006/09/14(木) 03:18:32.63 ID:no0rd9p2O

「お前、どこまで聞いたんだよ……」
『えへへ、聞きたい?』
「いや、いい……」
このデバガメめ……デバガメめ!

『……何で、好きって言わないんだろうね。美咲ちゃん』
急にトーンが下がった声。
心臓が、少しだけ跳ねた。
『ね。これだけ川島君と通じ合ってるのに。』

……薄々思っていたことだった。
これだけ積極的なのなら、そろそろ好きと言ってくれてもいいんじゃないか。
男なら誰でも持っている、慢心の塊だ。
でも。

「さあな、知らねーよ」

そうだ。そんなところまで知る権利はこっちにはない。
俺はただ、待つしかないのだ。待っているようではいけないかも知れないけど。
美咲さんが好き。俺は、そこまでなのだから。

「……だいたいお前も、何でいきなり誘ったりしたんだ?つーかよく誘えたな」
半ば強引に、話題を変えた。
『うん……えっと…………』
さっきまでの威勢はなくなり、すっかりいつものぼんやりさんに戻った様子で高井は言った。

『哀しそうだったから、かな……』
会話のテンションを上げたかった俺の思惑に反するように、ゆっくりと呟くように続けた。

 

527: 総支配人 黒曜美咲8/8 2006/09/14(木) 03:20:36.19 ID:no0rd9p2O

『前駅ビルで会ったことあったでしょ?あの時私と川島君が話してたとき、美咲ちゃん、すっごく哀しそうな目をしてた』
「…………………………。」
『その後、支配人って呼ばないでって言われて………なんでかわかんないけど、友達になりたいな、って思ったの』

『だから、ね』

「……………………。」
哀しそうな顔か。
わかっちゃいるけど、俺だけじゃ彼女を哀しませないのは無理なのかな。

『……大丈夫。川島君のせいじゃないよ』
「お前……………………」
『川島君は、それでいいと思うよ?美咲ちゃんだって、きっと、そう思ってる』

『だから、川島君が、気付かせてあげて?』

――――――――――!

そうか。気付かせる、か。
なるほどな。確かに、そりゃあ俺の仕事だ………………
……全く、ホント空気読めない奴だぜ、高井…………。

「―――ありがとう」

久々に、心を込めて礼を言う。
高井が、初めて純粋に笑った。

――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
――――

 

528: 総支配人 黒曜美咲 おまけ 2006/09/14(木) 03:21:36.39 ID:no0rd9p2O

おまけ
控えの二人
「特にFFザムービーは酷かったと思うんだが、どうかね?」
『……あれを映画と呼ぶならば俺は怒るね。怒る』
「君、話がわかるな。ふむ……アニメといえば、『時をかけるゲド』はどう思うかね?」
『観たけど、ありゃダメだな。あんなの主題歌とおんなじで監督のオナ…………………』
以下無限ループ

(c)映画館のねーちゃん

――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
――――

804: 総支配人 黒曜美咲1/9 2006/09/26(火) 01:43:44.86 ID:uB9JoQaKO

時刻にして1時過ぎ、日差しが最も強い時間。
その中を、俺と高井は肩を並べて歩いていた。

押し寄せる波は絶え間なく砂浜を洗い流し、照りつける太陽は現れ始めた雲を通してもなおその熱を地上まで届かせる。

どこを見渡しても人で溢れかえる海岸。
建ち並ぶ出店屋台に立ち並ぶ人々。
『暑いね~』
そして高井が言う通りの、地肌を焼け付かせるような夏の熱。
目に見えるもの、感じるもの全てが、今の俺にはまるで補正でもかかったかのように輝いて見えた。

まあ、つまり……あんな話を聞かされてテンションが上がっているのだ、俺は。

「いいじゃん、夏らしくて」
『あれぇ、どうしたの?急に元気出てきたねー』
しまった、悟られたか。
「いやぁ、別に…………」
『あーうそだーっ。あんなこと聞いて嬉しがってるんでしょ~。かーわいーんだー』
慌てて取り繕うも、もちろん高井はそんな事に聞く耳を持つわけもなく、いつも通り―――高井ってこんな奴だったか……?―――俺をからかい始める。
「やかましい。なんならこのタコ焼き代きっちり請求してやってもいいんだぞ」
調子に乗る高井を一刀両断し、左手に持った2パック入りのビニール袋を持ち上げてやる。
実はこれ、
『財布ロッカーに忘れちゃって~……でもいいでしょ?ビール奢ったげたし、それに………イロイロ教えてあげたんだし♪』
……などという、理不尽かつ傲慢極まりない理由で(実質俺ビール飲んでねぇし)半ば無理矢理代金を支払わされた代物なのである。

 

805: 総支配人 黒曜美咲2/9 2006/09/26(火) 01:45:39.10 ID:uB9JoQaKO

『う、あうぅ…………』
さすがにその負い目があるのか、高井は小動物のような声を上げて素直に引き下がった。
うんうん、先生素直な子は大好きです。
…………もう一人は素直すぎる気がするけど。

さてまぁ昼飯食ったらどうすっかな………もっかい美咲さん誘って入ってみるかなぁ、海。
そうだよな。せっかく来てるんだし、機会を生かさないテは無いよな。うん、そうだそうだ。
そうだ、かつてはエレベーターの中でさえときめいていた俺を思い出せ! ……うわ、思い出したらちょっと恥ずい…………

茹で上がって舞い上がったその頭で、おおよそいつもの―――俺ってこんな奴だったか……?―――俺らしくない事を焼けた砂浜を歩きながら考えているうち、俺達は元いた海の家に戻りついた。

垂らされたすだれが開放的な入口から店内へと入り、残って俺達を待っているであろう二人を探す。

そして二人はすぐに見つかった。
向かい合って、なにやら話を弾ませている二人が見えた。

いつもどこかシケた顔つきをしている浅谷が、久々に溌剌と話しているのが見えた。
膝に手まで付けて、真面目に話を聞く美咲さんが見えた。

そして、その美咲さんの顔には。
うっすらと、しかし確かに、
滅多に見ない、笑みが、浮かんでいた。

 

806: 総支配人 黒曜美咲3/9 2006/09/26(火) 01:47:14.49 ID:uB9JoQaKO

-----

『だからなぁ……言いたいことを言わせちゃったら、官崎アニメらしくな・・・おーお前ら、えらい遅かったな』
俺達の姿に気付き、浅谷はこっちに振り向いて声をかけてくる。
それにつられるように、美咲さんもこちらを向いて目を合わせてきた。
……微笑を湛えたままで。

「…………あ、おう」
あれ…………なんか、意外にショックだ。

「少し時間がかかったな。何かあったのかね?」
不意に沸き上がった感情を把握しきれないまま彼女の隣の席に腰掛けると、いつの間にか無表情に戻っていた美咲さんが声をかけてきてくれた。

「……いや、別に。美咲さんは何話してたの?なんか楽しそうな顔してるけど」
つい皮肉っぽく言ってしまう。別にそんなつもりはないのに。

「そうか………………ふむ」
少し長い前置きを一つおいて。
「いやな、君達を待っている間、浅谷君と映画の話をしていてな。なかなか彼は映画に関する造詣が深い。
ここまで話せたのは彼が初めてでな、実に楽しかったんだ。ああ。」
本当に楽しい時の特徴の矢継ぎ早で、彼女は笑顔の理由を説明してくれた。

 

807: 総支配人 黒曜美咲4/9 2006/09/26(火) 01:48:23.55 ID:uB9JoQaKO

「……そりゃそうだ。あいつ映研だったからな」
「ほう………そうだったのか。流石といったところだな」

へぇ。
そりゃ映画好き同士なら話も合うだろう盛り上がりもするだろう。
人に笑いかけることだってあるだろう。
美咲さんだって嬉しいはずだ。笑って話せるぐらい気の合う友人が出来たんだから。

だが、何か気に食わないのだ。

まるで、いつも座っている席に他人に座られていたような、微妙な感覚。
それがたとえ友人であったとしても、同席はしたくない。否、させたくない。

男の身勝手な独占欲。
そうわかってはいても、考えずにはいられなかった。

俺以外に笑いかけることがあるのか、と。

 

808: 総支配人 黒曜美咲5/9 2006/09/26(火) 01:50:26.15 ID:uB9JoQaKO

-----

昼食を食べ終わって30分も経つというのに、俺達のいる位置は前と変わっていない。
さっきまでは高井達もパラソルの近くで遊んでいたが、いい加減痺れを切らしたのか先程さっさとどこかへ行ってしまった。
せっかく来てるんだしあいつらに付いて行くぐらいした方がよかったんじゃないか――なんて少しは考えもしたが、
無駄な言葉を発せず冷静を保ち続ける美咲さんにかまけてさっきの気味の悪い感覚についてずっと考えていた俺は、とてもじゃないがはしゃぎ回りに付いて行く気にはなれなかった。

早い話、これはエゴなのだろう。

彼女は、彼女の好きなように振る舞えばいい。
それを咎める権利も、嫌がる権利も、俺にありはしない。

でも、考えるぐらいなら。
彼女を愛する者として、そのくらいの勝手は許されるんじゃないかと思う。

だが、一方でこうも思う。
彼女を、孤独にしてしまうのではないかと。
笑い合える人間を見つけた美咲さんを、独りにするようなことを。恋人でも何でもない、この俺が。

そんな傲慢が、許されるのか。

ずっと、悩み続けることになるのだろう。一人のひとを愛するというのは、こういうことなのかもしれない。

 

809: 総支配人 黒曜美咲6/9 2006/09/26(火) 01:52:39.34 ID:uB9JoQaKO

-----

「……さっきから、ずっと考えていたことがある」
その時突然、美咲さんが話し始めた。
「君が高井君と出掛けている時に私は、妙な感覚に捕らわれたんだ」
「……どんな?」

「どこかへ行ってしまって、二人で懇ろになってしまうのではないか、と」
「…………………!」

はたまた意外だった。
俺と、同じことを考えていたなんて。

「……何故だろうな。別に恋人というわけでもない、縛るつもりもないのだから、嫉妬だとか危機感というわけでもあるまい」
まるで研究論文の発表でもしているかのように、彼女は淡々と自分の感情を吐露していく。

「そうだ……これは、エゴだ」
初めから確信を持っていた言い方だった。

 

810: 総支配人 黒曜美咲7/9 2006/09/26(火) 01:54:37.91 ID:uB9JoQaKO

「なあ、深澄。君と出逢ってから、私は少しおかしいんだ」
「……何が」
「君は私の夫でもなければ恋人でもない。なのに、君が離れていくと、何か、やるせなくなるのだ」

………………………………。

「前……そうだ、君と初めてデートに行ったときだ。駅前のビルで、高井君と会っただろう」
「そのとき、君と高井君が仲良さげに話しているのを見ていて、何故か私は、少しだけ、哀しくなった」
「思い出したんだ。今日、君達がどこかへ行ってしまった時に、自分が考えていることに気付いたときにな」
「浅谷君と話している間も、ずっと頭を離れなかった。そのことが」

…………ああ。そうか。そうだったのか。

「不思議だな。君に逢う前までは、懇意にしている人間が誰と話していようと、自分が介入するものではないと思っていたのに」

「君には、何の義務もないのに。」

―――――――――――!

 

811: 総支配人 黒曜美咲8/9 2006/09/26(火) 01:56:27.16 ID:uB9JoQaKO

「実に勝手ながら、私は思ってしまうのだ。深澄に近付く異性に、あまり懇意にしてくれるな、と。そして、君には―――」

「――――離れていってくれるな、と。」

「……………これは、前にも言ったな」

風が、吹き抜けた。
溜まっていた暑気を、彼方へと運び去るような、風。

「なあ、深澄」
「……………なに?」
「ずっと、一緒にいてくれるか? 君はそれを、望んでくれているか?」

「…………ああ……」

ああ。
そりゃあ、当たり前だろう。
エゴだって、嫉妬だって。
ずっと一緒にいることだって。
お互い、そう、望んでいるんだから。

 

812: 総支配人 黒曜美咲9/9 2006/09/26(火) 01:58:53.38 ID:uB9JoQaKO

「………もちろん。ずっとそばにいる」
当然の、答えだった。

そしたら彼女は、店で見たそれの何十倍も綺麗に見える笑顔を俺に見せてくれながら。
「ありがとう。ずっと一緒にいよう、深澄」
そう、言ってくれた。
さわやかな潮風が、吹いていた。

「な………海、行かないか。せっかく来てるんだし」

「ああ。行こう」

時刻にして3時前、日差しが少し優しくなる時間。
その中を、俺と美咲さんは、肩を並べて歩いていた―――――

175: 総支配人 黒曜美咲1/9 2006/10/17(火) 02:21:38.55 ID:wp7YXLgkO

とす、とす。
ざぶ、ざぶ。

二人で、膝上ぐらいのところまで歩いて行ってみた。
裸足で踏みしめる砂の感覚と小さく寄せる波のせいで足元が頼りなくて、なんとなく美咲さんの方を見る。
相変わらず綺麗に伸びた背筋をいつも以上に(きっと背中がよく見えるせいだ)際立たせながら、彼女は俺の少し前に立っている。
その姿が漂わせる凛々しい空気は、そこが例え海であろうが、ビキニ姿になっていようが変わらない。
そんな彼女を見て、なんだか妙に安心したりした。

「冷たいものだな」
ぽつりと、彼女が言った。
確かに、足元をすくってゆく海水は案外に冷たい。

「日高の海はもっと温かいんだ。この海は冷たすぎる」

日高………?
……ああ。そういえば言ってたな……実家の頃はよく海に行ってたって。

「暑そうだもんなあ、和歌山?」
「いや、こっちの方がよほど暑いよ」
「え?」

意外なことをのたまった美咲さんの目は、遥か先の水平線に向けられていた。
「気温で言えば、確かに和歌山の方が暑いだろう。
だが、ビルと仕事に囲まれて一人で感じる暑さと、一年振りの実家で海を見ながら感じる暑さはわけが違う」
そう言って彼女は、素早く腕を後ろに回して髪をかきあげようとした。
が、その髪はそこにはない。腕は背中でぴたりと止まる。

 

176: 総支配人 黒曜美咲2/9 2006/10/17(火) 02:22:39.74 ID:wp7YXLgkO

「………ふ、本当に厳しいよ。こっちの暑さは。つい郷愁を誘われてしまう」

行き場を失った左腕を、彼女にしてはだらしなくぶらぶらと遊ばせながら、自嘲じみた笑いを一つ。

「――だが、君となら………この暑さも、悪くないかもしれんな」

少しだけ困った笑顔を僅かにこちらに傾けて、彼女は言った。

ああ、そんなこと。言われる方が恥ずかしい。
でも……まあ……確かに。
俺だって美咲さんがいてくれれば、この暑っ苦しい夏も苦にならないかも……なんてな。
ああ俺らしくもない。

「……んな大事な帰省に邪魔していいのかね、俺が」
「何を言う、そもそも私が来てくれと頼んだんだ。いいに決まっているだろう」

照れ隠しついでの俺の言葉に、今度は体ごと振り向いて。

「君が付いて来てくれれば、きっと今までで一番の帰省になる。
………そうしてくれるのだろう、深澄?」

これまた俺を存分に困らせてくれそうな期待のこもった笑顔を浮かべて、彼女は俺にそう言った。

 

177: 総支配人 黒曜美咲3/9 2006/10/17(火) 02:24:23.44 ID:wp7YXLgkO

「……へいへい、行きますよ。和歌山でも日高でも」
「うむ………ああ、実に楽しみだ。今までもそうだったが、
間近になってこれほど待ちきれない帰省は初めてだよ。君のおかげだ」
「そか………」
「実家に戻ったら、また海に行こう。もちろん、二人で」
「………ああ」
「では、泳ぎに行こうか」
「え、何でそうなるんだ?」

「この海がいかに冷たいかわかっておかなければ、私のところの海がどれだけ温かいかわからないだろう」

……………………。

…………………………ふ。

「ふっ、ははっ!」
「なんだ、何がおかしい」
「え、いや、真面目だなぁと思ってさ」
「私はいつでも真面目だ。さあ行こう」
そう言い放ち、美咲さんは水平線へと歩き始めた。
「へいへい」
「冷たい」水を足でかき分け、ずいずいと歩いてゆく美咲さんの背中を追った。

 

178: 総支配人 黒曜美咲4/9 2006/10/17(火) 02:25:39.11 ID:wp7YXLgkO

-----

「……ちょっとしんどいな…………」
「そうかね? これぐらいは普通だと思うが」
「いや、さっきからずっと泳ぎっぱなしだし……」
久々の水遊びが30分近くひたすら遠泳ってキツすぎだろ。
足は疲れるわ波のせいで海水が顔にかかりまくって塩っ辛いわでかなりヤバい。
一方美咲さんはと言うと、いつもながらの飄々とした顔ですいすいと進んでゆく。
「あのさ……ずっと泳ぎっぱなしなのも疲れるんだよな………そろそろ上がろうぜ」
必死で足をバタつかせながら懇願する。
何しに海に来てんだ俺は………
「ふむ……そうだな。そうするか」
そう言うと美咲さんは、体を砂浜の方へと向けた。
さて俺も……と、一旦泳ぎを止めて立ち泳ぎになった、その瞬間。

ぴきっ。
やべぇ足つった!

「いってえ足、げほっ!いてててて」
痛ぇ!目に塩水入った!
イタイイタイイタイイタイ!!!!
「深澄、落ち着け。すぐそこまで行けば足が着く」
「え!?あ!!いだだだだだ」
「大丈夫か、私に掴まれ」
「い、いや………だいじょぶだ……あいた!」

 

179: 総支配人 黒曜美咲5/9 2006/10/17(火) 02:27:38.93 ID:wp7YXLgkO

「無理はするな。浅瀬でも溺れることはあるんだぞ」
「え…………」
美咲さんが過剰に心配してくるのを見て戸惑う俺の
「いいから」
「うおわ!ぃイタっ!!イタタタタタ」
腕を彼女はひっ掴み、砂浜の方へと泳いでいく。
やがてすぐ彼女の言うとおり、引きつったまま水中をだらりと漂っていた左足が底の砂を擦った。
「大丈夫だったか」
しばらく美咲さんに引っ張られ続け、腰あたりまで水が下がったあたりまで来たところで、初めて彼女が立ち止まった。
もう随分底も近い。そろそろ立ち上がれるだろう。
「ああ、すまん………ありがと……」

びきっ!

「………ういってええええ!」
立ち上がろうと体重をかけた瞬間左足に激痛が走り、再び水に横たわる。
どうやら随分ひどいらしい……
「これは少々ひどいな………仕方がない」
そう言うと彼女は俺に背中を向け、そのまましゃがみこんだ。

「あのー……これは………」
「そのままでは歩けないだろう。パラソルのところまでおぶって行くから、背中に乗りたまえ」
ブーーーーッ!!

 

180: 総支配人 黒曜美咲6/9 2006/10/17(火) 02:29:41.44 ID:wp7YXLgkO

「どうした、早くしないか」
「いや、そのもう大丈夫だから!歩ける歩けるいてえええうえ!!」
だっぱーん。
「無理はしなくていいと言っただろう。さあ、早く」
「いったぁ……え。いやなぁ………」

「……これでも、少しは責任を感じているんだ。私が無理矢理泳がせたからじゃないかとか」
「え。」
「私なりに償いたいんだ。君は背負われてくれるだけでいい。すまない、頼む」

……………あー……。
そこまで言われちゃうとなあ。

「……わかったよ」
「さ、早く」
「はいよ……あーいてて、よいせと」
体を起こし、彼女に近付く。
そして、背中に覆い被さるように密着した。

「いいか、では行くぞ」
ぐわん、と、持ち上げられる感覚。
普段より少し低い視点に揺られながら、砂浜へと歩いてゆく。
肩に頭を乗せて、真横には何事もないかのようないつもの顔。
体に押し付けられる、濡れていてもなおわかるすべすべの背中。胸元をくすぐる水着の結び目。

 

181: 総支配人 黒曜美咲7/9 2006/10/17(火) 02:31:36.50 ID:wp7YXLgkO

ざぶ、ざぶ。
ゆら、ゆら。

――おぶわれるのは、何だか人に頼り切っているみたいで、子供の頃はそれが嫌いだった。
でも、今更ひとに頼り切ってみるのも、悪くないか……なんて、思ったり。
………ああ、俺らしくもない。

「……ありがとう」
「ああ。すまなかった。日高ではこういうことはないようにせねばな」
「いや……いいんじゃない?」
「いいわけがなかろう。君はまた足をつりたいのかね?」
「そうじゃないよ……まぁいいや」
「何だ?私は最近何だか変だと言ったが、君も今日は少しおかしいぞ」
「ああ、そうかもな…………」
「………………?」

その後砂浜に上がるまでずっと、彼女は考え込んでいた。
なんだ、こんなにかわいらしいところもあるんじゃないか。
と、微笑ましい彼女の姿にあてられて周りを見回すと、やたらと周囲の視線がこちらを向いていることに気付いた。
そうだ、大の男の自分は今「背負われている」のだ。
認識し忘れていた現実に急に恥ずかしくなり、顔をそむけて下を向く。
美咲さんとやたらと顔が近付いてしまうことにさらに気付いて、大いに慌てた。
「なんだ、どうした……顔が赤いぞ」
「……焼けたんだよ」
「嘘だな。顔には私がクリームを塗ったはずだ」
「……恥ずかしいんだよ」
「もうしばらく辛抱したまえ」
きっぱりと言い切られる。
ああかわいくない、と、冗談混じりに思い直した。

 

182: 総支配人 黒曜美咲8/9 2006/10/17(火) 02:34:00.22 ID:wp7YXLgkO

-----

ようやく篠田の駅までたどり着いたのは5時過ぎ。帰宅ラッシュ前の、僅かに混雑し始める駅前にワンボックスを止めていた。
高井・浅谷のバカ二人は、「遊び尽くした」そうで後部座席で爆睡中だ。
くそう、痛む足で頑張って運転してた俺の気も知らずに………!
「おいお前ら!篠田だから俺達ゃ降りるぞ!」
後ろに向かって大声で叫んでやる。
『あぁ……あ?』
『……………ふぇ』
緩慢な動作で起き上がる二人。
お前らこのままほっといたら一酸化炭素にでも充満されて死ぬんじゃないか。
「じゃあ篠田まで来たから、俺達は降りるぞ。眠気覚めてから運転しろよ」
そう言い残し、車を降りる。
と、不意に後ろの窓が開き、高井がひょっこりと顔を出した。
『………おつかれさまー……』
なんだそれ。
「あーあー。お疲れ」
「今日は誘ってもらって嬉しかった。ありがとう」
『ふえ………あ、うん』
今こいつが運転したら死ぬな………

 

183: 総支配人 黒曜美咲9/9 2006/10/17(火) 02:35:55.66 ID:wp7YXLgkO

『じゃあな。気ぃ付けて帰れよ』
と、もう目が覚めたのかと突っ込みたくなるはっきりした口調が窓の奥から聞こえた。
「うおっ……お前起きるの早いな」
『そか? ……んじゃまぁまたな』
「浅谷君、今日はありがとう。楽しかった」
『あーそりゃよかった。じゃあコイツと仲良くな、お疲れ』
「ああ、もちろんそのつもりだ」
「おま…………!」
非情にも窓は閉められた。
「あいつら………」
「いい友人じゃないか。知り合えてよかった」
「そうかぁ?」
「当然だ。またいつか顔を合わせたいよ」
「まあまた今度にでも時間が合えばな……」
「ところで、この時間に一人で帰ってもつまらないだろう。夕飯でも食べていかないか」
「え、いいの?」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあスーパーに………………」

「うむ………………………………」

「………………………………」

「……………………」

「…………」

 

海編おわり

 

 

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